2017夏③ 「自由研究」

  小学4年生のYちゃんの学校から出された夏休みの宿題は、各教科の問題が詰まった「夏休みワークブック」、毎日の行動を1行で記録する「1行日記」、その中で一番印象深かった一日分だけを書く「絵日記」、浜田広介の童話の「読書感想文」、それと「自由研究」だそうです。
  絵日記が1日分だけでよいなど、子どもと先生両方の負担を軽減したものもありますが、基本的な構成は昔と同じような気がします。Yちゃんは既にワークブックと読書感想文についてはメドをつけ、残る大物は自由研究だけ。
  自由研究というのは、要するに自分で関心があることについて長い休みの期間にさらに理解を深め、それを制作物にしたり、レポートにしたりすることのようです。私が子ども時分には、いろんな種類のセミやトンボ等を捕まえて空き箱に綿を敷いた上にピンで留めた「昆虫採集」や、同様に作った「貝殻集め」などが定番でしたが、最近は大分様子が違っているようです。
  Yちゃんのクラスでは、裁縫や料理などの「家庭科系」や、植物の成長や星の観察などの「自然科学系」の子が多いようです。で、我が家に預かっている間に完成させる責任があるのでYちゃんに予定を聞いたら、最初は「戦国時代の女性たち」についてまとめたいと言っていたのが、つい先日は、「特攻」についてにテーマを変えたとのこと。いずれも「社会科系」ですが、「特攻」についてはびっくりしました。
  戦国時代の女性云々は、NHKTVの大河ドラマ「おんな城主直虎」の影響であることは明らかです。我が家は大河ドラマは全然観ていなかったのですが、Yちゃんが来てから一緒に観るとこれが結構面白い。本人は以前から、このTV番組の他、漫画本の「戦国姫」シリーズや「関ヶ原の戦い」のような戦国物の漫画や子ども向けの本を夢中で読んでいましたし、パパに車で関東周辺のお城や史跡見学にあちこち連れて行ってもらってもいました。
  私は、主君に忠実な者ばかりではなく、寝返ったり、裏切ったりする者がいたり、幼い跡継ぎが殺されたりするような話が多い戦国物はあまり好きではないのですが、まあこのようなところから歴史に興味を持つようになるのもよいかと、Yちゃんの戦国物好きを見守ってきました。
  そして実際、Yちゃんは歴史大好きな子となり、最近は今次大戦に大きな関心を持つようになってきました。「おじいちゃんは戦争のこと覚えている?」と聞くので、「赤ん坊だったから全然覚えていないけれど、戦後の大変な時代のことはよく覚えているよ」と、お父さんを戦争で亡くした友だちがいたこと、給食に出た米軍払い下げの脱脂粉乳がまずくて飲めなかったことなど、小学生時代の話をしてあげました。
  「戦争に行った人」の話も聞きたがるので、当時北海道に住んでいて召集された妻の父親が、実際には道内のどちらかの海岸線を守る兵隊の一人だったようですが、「おばあちゃんのお父さんはソ連軍と戦ったんだよ」などと適当に言うと、深刻な顔をしています。
 そして、Yちゃんの関心は「特攻」にまで及んだのですが、どうやらこれも歴史関係の本を読んだり、TVを観たりした影響のようです。「永遠の0」や「はだしのゲン」も知っていました。
  最近、9条も含め、憲法改正が既定の話のように論じられていますが、憲法を学んだ学生時代以来、平和憲法として現憲法を大切に考えてきた私にはとても違和感があります。ただ、昨今の世界情勢の中で日本の安全や世界の安定をどう図っていくかも重要なこと。憲法改正の是非は、私にとっては明快な解が出しにくい問題ですが、いずれにしても近現代史を踏まえて十分議論する必要があると思っています。
  そのようなことまで思いを巡らしていると、近現代史の中で最も悲惨な出来事であった今次大戦の、その中でもシンボル的なものの一つであった「特攻」についてどう考えたらよいのか、私には次のようなことが浮かんできます。すなわち、
  昭和初期の頃から統帥権の独立の名の下、軍部が暴走して日中戦争や対米英開戦に踏み切って、勝てる見込みのない泥沼の状況に陥らせ、その中で特攻という狂気の作戦まで採って多くの若者を死なせた。一方で、特攻で逝った人たちの遺書を読んだりすると、国や故郷や家族を思う気持ちの崇高さに胸を打たれ、この人たちの死が全く無意味であったかのようには語れない。
 零戦(インターネットから)
  また、その当時の世界を見ると、欧米各国のアジアやアフリカなどの植民地化や帝国主義的侵略の事実があったことも間違いない。戦争遂行の場面を見ても、東京大空襲や二度にわたる原爆投下による一般市民の大量殺戮など、アメリカの現在も続く横暴もあった。
  そのようなことを考えると、先の大戦の敗戦までの我が国における軍部の暴走と、それを許した国家機構のあり方など、日本は大きな過ちを犯してきて、これを二度と繰り返してはならないが、その当時の日本を全否定することができない気持ちも残る。しかし、過ちを繰り返さないためには全否定しなくてはならないのかもしれない、等々。
  ということで、特攻をどのような視点でどう総括するのか。おじいちゃんの乏しい知識や世界観ではYちゃんの自由研究へのアドバイスも手伝いもできないので、自由研究で特攻をテーマとすることを止めてもらいたいというのが本音です。
  歴史好きとなったYちゃんに、正しい歴史観を持ってもらうよう、国民的歴史小説家の司馬遼太郎が書いた「二十一世紀に生きる君たちへ」を先日、プレゼントしました。子どものために司馬遼太郎が初めて書いた本です。
  我が国の近現代史には、韓国併合により韓国民から千年は消えない恨みを買ってしまったことや、中国に進出して中華思想を持つ大国の誇りを傷つけてしまったこと、そのため、現在に至るも両国との関係がぎくしゃくしているという大きな負の部分もあります。
  我々の世代はともかく、孫たちの世代までにはこの問題が解決して日中韓の国民が仲良く暮らしているよう、そして世界の恒久平和が築かれているよう、期待してやみません。