鎌倉ハイキング

  ゴールデンウイークの我が家への来訪第2陣はYちゃんとママ。パパの会社が、大震災後の計画停電の関係で夏休みを増やす代わりに5月はゴールデンウイーク返上で出勤となったため、家族でどこかへ出かけることもできず、Yちゃんとママだけが我が家に遊びに来たのでした。おまけに、ママは5月下旬に第2子出産予定の臨月の身。自然とおじいちゃん、おばあちゃんの出番となります。私が車で迎えに行きました。そして初日は、Yちゃんの幼稚園用のレインウエア上下を買いにみんなで横浜みなとみらいへ。車で行きましたが、みんな遠出をしているのか、道路も駐車場も意外と空いていました。
  登山店でしっかりしたものを買ったあと、ママとおばあちゃんは他のビルにお買物に行ったため、私とYちゃんは登山店の上の階の「あそびのせかい」という有料の子ども遊び場で留守番です。エアトラックというビニール床を膨らました巨大なトランポリン的なものや、サイバーホイールという、空気で膨らませた大きな輪の中に入って子ども自身が輪を転がすものなどにYちゃんは大興奮で遊んでいました。たくさんの親子連れが来ていて、小さな、ハイハイが出来るようになったばかりの子も遊んでいます。まあ、子どもが喜んでいるからいいようなものの、都会のビルの1室で、人工的な遊具で遊ばせる。しかも、子ども一人30分で600円、一緒に入場する保護者が100円という料金を払い、10分超過するごとに100円の追加料金がかかるといったシステムが、私のような年代の者には何となく馴染めません。子どもは公園や遊園地など、屋外で時間を気にせずに遊ぶものではなかったのか。日本の子育て環境も変わってきたものです。
  ところが、次の日(こどもの日)はとても素晴らしい日となりました。私と妻の二人でYちゃんを鎌倉ハイキングに連れて行ったのです。ママは身重でハイキングなどできる状態ではありませんので、家で留守番。私と妻はそれぞれデイパックを背負い、朝、妻がつくったお握りや、麦茶と2倍に薄めたポカリスエット、レインウエアなどを入れました。Yちゃんは「山登り、山登り」と大はしゃぎです。駅まで歩いて電車に乗り、北鎌倉で降りて浄智寺の脇から源氏山ハイキングコースに入りました。この日、最近ますます言葉が増えてきたYちゃんの発言に何回か微苦笑させられるハメになったのですが、ここでまずYちゃんの一発目のとんでも発言がありました。
 ハイキングコースの入口、これから登りが始まる道脇の、昔風の和風民家がお食事処に変身していて、その趣のある門の前で、若い女性が二人、「まだ時間は少し早い(11時頃)ですが、お食事を召し上がって行かれませんか。美味しいご昼食をご用意しております」と、呼びかけていましたが、これを聞くやYちゃん、「これから山登りするんだもんね。食べてる場合じゃないよね。おじいちゃん」と大きな声で言ったものですから、一緒に歩いていたハイカーが一斉に大笑い。呼び込みをしていた若い女性も、「あらあら言われてしまったわ」と笑い出す始末。店の方に大変申し訳ないことをしてしまいました。
  ここからのコースは登りが続き、木の根っこが露出して屈折しているなど、結構、歩きでがあるのですが、ここでYちゃんの第2弾発言。「おじいちゃん、こんなの山登りじゃないよ」と、私が「ハイキング」と称さずに「山登り」とうっかり言い続けてきたことに異議を唱えられました。妻が、Yちゃんを励ますために「こんなの高尾山に比べたら楽でしょ。山登りじゃなくてハイキングなんだから」などと言ったのを受けたもののようです。確かにそのとおりなのですが、前後して歩くハイカーの中にはしっかりしたトレッキングシューズを履いて山用のストックを使っている人もいましたので、その方達にバツの悪い思いをさせてなければよいのですが・・・
  Yちゃんはこの4月、せっかく合格していた大学付属の幼稚園への入園を取りやめて、昨年から通っている幼稚園(に準じたもの)にそのまま継続して通うことになりました。友達がたくさん出来た上に、一駅先で通園が大変な大学付属のよりも、家に近い今のところの園のほうが通園にうんと楽なことから、パパとママが苦渋の決断をしたようです。で、今のこの園は、別名「遠足幼稚園」と呼ばれているところ。毎日、晴れた日も雨の日も歩いて方々の公園に遊びに出かけ、毎月1回は高尾山をケーブルカーにも乗らず、下から歩いて登るとか。年長児は卒園記念に北岳にも登るとのことです。このような毎日の園の生活から、Yちゃんの足腰はとても強くなり、今回のハイキングもへっちゃらでした。この時期の子どもをたくさん歩かせたり、走らせたりすることの問題点を以前聞いたことがあるような気もするのですが、ここの卒園生は小学生や中学生になってもスポーツが得意な子が多いようで、幼児でもきちんと段階を追って鍛えていけば、それに応じて逞しくなり、運動のさせすぎといったことはないと思いました。
  葛原岡神社で休憩。ここでみんなで水分の補給をしましたが、食事はまだ。神社にお詣りをしてから大仏ハイキングコースに入り、大仏様のある長谷に出てからさらに由比ヶ浜海岸まで行って、そこで昼食を摂るコースです。案内標識には大仏様まで2キロとあります。それまで以上に険しいところも出てきましたが、Yちゃんは私か妻と手をつないで、どんどん歩いていきます。50センチくらいの段差でも子どもにとってはその倍くらいに相当するものなのに、跳び降りたりよじ登ったり。少し前を歩いていく家族連れの5歳くらいの女の子が、崖そばの段差の上で「こわいよぅ」とぐずって、父親に抱っこされて降りたのを見たYちゃん。「あの子泣いてるよ。Yちゃんは泣かないもんね」とまた大きな声。「Yちゃんは偉いね。だけど、あの子はきっとハイキングが初めてだったんだよ」と小さな声で制するのがやっとでした。
  北鎌倉駅から2時間近くかけて無事大仏様のある高徳院脇の歩道まで降りてきましたが、ものすごい人出。歩道幅が1.5メートルくらいしかないため、すれ違うのがやっとで、小さな子どもが大人にぶつかると危ないため、Yちゃんを懸命にかばいながら歩きますが江ノ電長谷駅まで行くのも超難儀。それでもYちゃんは「おんぶ」とか言いません。お昼も過ぎて1時頃となり、お腹も空いて喉も渇いているかもしれないのに黙々と、私に手を引かれて歩き通しました。やっと長谷駅に出たところで妻が「鎌倉どら焼き」なるものを買い、店の前の石段に3人で座って食べましたが、Yちゃんはイチゴどら焼きのイチゴを落としたりもせず、器用に全部美味しそうに食べました。
  ハイキングはまだこれで終わりではなく、踏切を渡って少し歩いてから134号線を横断して、由比ヶ浜の海岸に出ました。ここで、砂浜にシートを敷いて、海を眺めながら3人で昼食。お茶を飲みながらお握りを美味しくいただきましたが、Yちゃんは小さな両手でお握りをくるんで、少し開けて一口食べたらまたくるんでいます。「どうしたの」と聞いたら、「カラスさんに取られちゃうから」とのこと。確かに、砂浜にカラスの群れがいて「カーカー」啼きながら食べ物を狙っている様子でした。食後は、靴と靴下を脱ぎ、波打ち際まで行って「キャーキャー」と大喜び。小学校低学年くらいの兄弟が腰の高さくらいのところまで海に入っていましたが、Yちゃんは膝の辺り以上には行かせません。「人が溺れているよ」というので見たら、黒のウエットスーツを着たサーファーが板に乗って寄せてきては、どぼんと腰から転落するさまが、もがいているように見えます。板に帆を立てたサーファーたちも含め、かなりの数のサーファーが波と戯れていました。真っ黒く日焼けした女性サーファーが颯爽と海に入っていったり。真剣に海を見続けるYちゃん。近い将来、我が家に遊びに来ては湘南の海でサーフィンを楽しむようになる予感がしてなりませんでした。
  浜辺をずっと歩いてから134号線に戻り、今度は鎌倉駅まで向かいます。妻が美味しい店を知っているというので行ったら、昼食時間帯を過ぎた閉店の時間。それではと、段葛の辺りまで歩き、鳩サブレの豊島屋が出している甘味処「八十小路」で一息入れることに。とても頑張ったYちゃんと、おばあちゃんはクリームあんみつ。私は白玉汁粉。親切な女店員が、Yちゃん用のほうじ茶には氷のかけらを入れて飲みやすくしてきてくれました。
  疲れも取れたところで鎌倉駅から帰途へ。その途中の駅のロータリーでの出来事。車を停めて政治演説をぶっている集団がいて何やらビラを配っていましたが、私が受け取らないで過ぎたら、Yちゃんがいきなり私の手をほどいて戻ったので何ごとならんと思っていたら、小さな手にビラをもらってきて、私に渡します。妻に言わせたら、高徳院近くの店で外国人観光客用に英語のパンフレットを自由に取れるように置いてあったのをやはりもらってきて、それは妻に渡したそう。どうやら、タダでくれるビラ等に興味があるようです。私に渡してくれたビラを電車の中で読んだら、「パチンコが日本を滅ぼす・・パチンコマネーに群がる政治家、警察官僚」とあって、日本の1年間の税収31兆円に対し、パチンコ産業の売上高は年21兆円。このカネの多くが北朝鮮に送られて核兵器開発などに使われている。電力不足が大きな問題となっている中、パチンコ産業は毎日、大電力を消費している。社団法人「パチンコチェーンストア協会」という組織があって、多くの国会議員(民主党が一番多い)がアドバイザーとして名前を連ねている、等々と書いてありました。政治的なことはともかくとして、親がパチンコに熱中して子どもを事故死に追いやったりすることも時々起きるようなパチンコは、普通の市民には害あって益なしです。
  無事に帰宅して私がはめていた万歩計を見たら、約1万7千歩。全部で10キロくらいは歩いたことになります。ちょうどこの日はこどもの日、端午の節句です。帰宅後に妻が菖蒲の葉っぱを買ってきてくれて浴槽に入れ、菖蒲湯に。早速、私とYちゃんでその風呂に入って汗を流しました。本当にYちゃんは体力が付いて、しかも精神的にもとても我慢強い子になった、鍛えればここまで出来るのだと、あらためて感動。子どもの生命力や限りない可能性に感慨一入でした。この子に負けないように、私ももっともっと頑張らねばと、Yちゃんから初めて、教えられ、叱咤された気がしました。Lちゃんに始まり、Yちゃんで花開いた今年のゴールデンウイーク。孫たちにありがとう!