台湾事情

  19年前、我が家にホームステイをしたことのある台湾のYさんが、日本出張の際に時間をつくって、我が家に訪ねてきてくれました。13年前に私たち夫婦が台湾にYさん一家を訪ねて旅行して以来の再会です。Yさんは日本留学の後、故郷の台南市にある会社に入り、そこの日本担当の責任者として活躍中です。これまでにも何度も日本に来ていますが、仕事が忙しくて電話で挨拶をくれる程度。それでも、毎年、クリスマスカードや年賀状の交換をしたり、メールで家族の写真を交換していたので様子は分かっていましたが、今回はじっくりと直接に、積もる話ができました。
  40代の半ばとなったYさん。奥さんは看護師でしたが、今は仕事をしていないそう。長男は私たちが台湾で会ったときはまだ2歳でしたが、高校1年生になって野球に打ち込んでいる一方で、最高レベルの大学を目指して勉強もしっかりしている様子です。次男にはまだ会ったことはありませんが、小学6年生。この子が少し足が不自由のため、現在の5階建ての一軒家からマンションのワンフロアに引っ越しを考えているとのこと。私たちが伺ったとき、5階建てに驚くとともに、その各フロアが大理石の床であったことにも驚いたものですが、いま引っ越しを考えているマンションは床面積が50坪(165㎡)もあるとのこと。Y家はなかなかリッチなようです。 
 ご両親にもお会いしたことがありますが、国家公務員であったお二人は既に引退して、今は毎日、趣味の畑仕事などに忙しいらしい。儒教思想が強い台湾では、老人ホームはあまり普及せず、子どもと同居して面倒を見てもらう人が多いらしいのですが、Yさんのご両親は同居はしたくないとおっしゃっているようです。出生率が下がり続け、少子化が進んでいること、高学歴志向で、大学院への進学者が増えていることなどは、日本と同じ現象です。このほか、気候、風土から生活や社会一般に関するいろんな話を時間が経つのも忘れて続けましたが(なにしろYさんは日本語ペラペラですから、こちらは全然楽です)、今回の一番の収穫は、台湾国民の対中国観を聞けたこと。
  これに関連しては、私には苦い経験があります。夫婦で訪台したときに、Yさんのご両親が息子が日本留学中にお世話になったお礼ということで一席設けてくださった折り、全くの庶民レベルの交流なのに、「両国関係」的なものを意識した私は、「日本人は、日本の敗戦後、蒋介石総統が『暴に報いるに徳をもってなす』という寛大な対応をしてくれた恩を忘れない」といった、蒋総統を賛美する演説をしてしまったのです。その途端、ご両親が、不快そうではないのですが、極めて困った顔をされたので、後でそっとYさんに聞いたら、台湾人の中(特に古い歴史のある台南市など南部)には、戦後に中国本土からやってきて支配階級となった外省人に対する反感が強いということ。そんなことにも気がつかなかった自分の浅薄な知識や教養レベルが情けなくなったものです。(実際、その後に蒋介石について学び直し、私自身にかなりの不明があったことが分かりました)
 で、現在の台湾国民が中国をどう思っているかということですが、反感半分、経済のためには交流も必要という気持ちが半分のようで、このあたり、日本人の気持ちと似ているのではないかと思いました。反感の底にはやはり、中国の人権問題や政治的な横暴さの問題、地球温暖化など環境を無視した独善的な経済活動などがあるようです。ちなみにYさんにとって中国は、「外国です」という一言でした。我が意を得た私は、リビングの壁に貼っている世界地図を指さしながら、大陸国家中国を海沿いに囲んでいる、韓国、日本、台湾、フィリピン、インドネシアシンガポール等々の国が連帯して対抗して中国の独善を防ぎ、アジアの安定と平和を築く必要がある、てなことを力説していたのでした。
 次には奥さんや息子さんたちと一緒に来てくれるとのこと。Yさんはうちの息子や娘とも交流があったので、今や結婚して子どももできた彼らとも再会して、孫との交流も深めてもらえればと期待しています。いずれ孫たち世代の時代にはアジアの様相も相当に変わっているでしょうが、おじいちゃん、おばあちゃんが始めた市民レベルの交流をもっともっと発展させて、いつまでも仲の良い、親戚同士のような国家や国民の関係を築いていってもらいたいと念願しています。