野田首相

  思想信条や主義主張は人によってそれぞれ違いますので、政治や宗教の話はよほどの親しい仲間や家族の間でしかすることはないのですが、最近、いくつかの集まりの場で、「野田さんは割と良いのではないか」という声を耳にしました。私も、総理大臣として、また一政治家として、野田さんはなかなかに良いのではないかと思っています。
  まず、政策面で最も評価できるのは、消費税増税法案など、社会保障と税の一体改革を不退転の決意で推進し、実際に実現しつつあることです。1千兆円を超える借金を抱えた破綻寸前の財政でありながら、選挙目当てのバラマキを続ける政治と決別し、国のリーダーとしての責任を果たそうとしていることです。現状を放置して、子どもや孫の世代に財政破綻のツケを回して、彼らが悲惨な生活に陥ることは絶対にあってはなりません。増税と歳出削減による財政健全化こそが、日本経済に対する信認を失わずに外国からの投資等を増やし、国内の設備投資等を刺激して株価や景気の回復、経済成長につながることになります。
  もちろん、誰だって増税は嫌なことですし、歳出削減では多くの国民が一時的には辛い思いをすることになりますが、ここでそれらから逃れていては、少子高齢化の急速な進行でそれでなくても厳しい日本の未来は、ますます絶望的になります。国民みんなで我慢をし合って財政再建を成し遂げ、経済の堅実な成長を目指す。そして、自助を基本としつつ、真に必要な人たちには社会的な介護や援護があまねく行き渡るような、持続的な社会保障制度を構築する。このようなことが、種々、耐え難きを耐えて、このたびの三党合意等による一連の改革を端緒につけた野田さんの政治姿勢とリーダーシップのもとなら出来る、というのは褒めすぎでしょうか。
  野田さんは、政治家としてのプロフィールの面でも、国民の共感を得やすいものを持っています。まったくの庶民の出身で、千葉県船橋市の公立の小、中、高校を経て早稲田大学政治学科に入り、卒業後、松下政経塾の第1期生として政治家を志しています。自民党に多い2世議員でもないし、民主党に多い、官公労や大企業の労働組合出身者でもない。松下政経塾出身者には頭でっかちなエリート臭の人もいますが、野田さんは政経塾を出た後、家庭教師や都市ガスの検針員などの仕事をしながら生活をし、多くの若いボランティアの人たちに支えられて、30歳の時に「金権千葉の風土を変える」をスローガンに千葉県議選に出馬して初当選したという、苦労人のようです。
  総理大臣に就任当時、ラジオのキャスターが、野田さんの風貌を「日本の首相というよりも、ベトナムの首相のようだ」とからかっていましたが、庶民的な風貌の一方で、テレビで見る限りでは、折り目正しく、凛とした雰囲気を持っていて、演説も上手いと思います。柔道経験があり(2段)、酒豪(日本酒が好きとのこと)だそうです。好きな言葉が、松下幸之助氏の「素志貫徹(成功の要諦は成功するまで続けるところにある)」と、ケネディ大統領の「幻想なき理想主義」だそうで、我が国の政治において、久々に「あきらめない政治」「決める政治」「衆愚におもねることなく、国のあるべき姿を追求した政治」を示した功績は大きいと思います。
  脱原発派が急増した中での大飯原発の再稼働の決定、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の推進などの、日本経済のための現実的な対応、尖閣諸島の国有化発言などに見る割と保守派的な考えなど、立場によっては野田さんに反発する人たちも少なくないと思います。これら、野田さんがこれまで政治家として示してきた言動も含めて次の総選挙で国民の信を問い、もしそれが支持されるならば、政界再編成をし、野田さんをリーダーとして進んだらどうでしょうか・・・。私の古い友人に、大新聞の記者を長くやってきて政治の世界に詳しいのがいますので、近々会って彼の見解を聞くのが楽しみです。