戦争と平和

  8月下旬に河口湖で大学時代の友人4人組でハイキングとゴルフの合宿をしましたが、その際に関西から参加していた友人から、このたび出版した著書が送られてきました。ある全国紙の記者となり、仕事の合間に書いたミステリー小説は横溝正史賞の佳作賞を受けるなど、もともと文筆のプロというべき彼ですが、今回の著書は、第一線の記者時代の取材記録をメインに、役員時代も含めてジャーナリストとして生きてきた彼の思いを込めた、「戦争と平和」に関する書き下ろしのドキュメントです。
 駆け出しの地方支局員時代、彼は、「プラハの春」と呼ばれたチェコ民主化運動がソ連軍の戦車に踏みにじられた世界史的な事件に際して、国際的なスクープをものにします。たまたま人物紹介的な記事で取り上げていたアマチュア無線が趣味の医師が、押し寄せたソ連軍の管制下、一切国外に出ることがなかったチェコ国内の動静を、過去に交信したことのある同国民との無線通信で辛うじてキャッチ。その医師に頼み込んで交信をしてもらった私の友人の記事が、全世界に発信されたのでした。
  このエピソードの紹介から始まり、この本は、先の大戦とその後に続く動乱等に関連したさまざまな出来事について、彼が直接に取材をして体験したことをもとに綴られています。神風特攻隊の遺族訪問、南洋沖での戦没者「洋上慰霊船」への同乗、ソロモン諸島での残留旧日本兵の2ヶ月間に及ぶ捜索、アウシュビッツ収容所の訪問と日本における同収容所の遺品展の開催、ポーランドにおける「ヒロシマナガサキ展」の開催、チェコハンガリー東ドイツ等での東欧革命の取材、等々。渋澤栄一の秘書役を務めていた実業家だった、彼のお父さんの残した日記から拾った、当時の軍部や政府要人たちの言動も紹介されています。
  新聞記者でなければ体験出来ないようなことばかりであり、新聞社では、個々の記者に一定のテーマ(友人の場合は、「太平洋戦争」ないしは「戦争」)を持たせて、長期にわたり多方面からの取材をさせるということも分かりましたが、誰でも書けるものではない、実に貴重なエピソードに満ちています。しかも、新聞記者ならではの「人」に焦点を当てた臨場的な書き方で、とても分かりやすく心に響きます。
  この本の帯には、「改憲論議の中で、新聞記者が語り継ぐ感動と慟哭のドキュメント」「国家とは何か、人間の尊厳とは何か」と書かれています。実に400万ものユダヤ人たちが犠牲となったナチスの大虐殺にせよ、国のためにと敵艦に突っ込んでいった特攻隊の若者たちのことにせよ、私たちの世代は、戦争を通して人間の愚かさや恐ろしさ、一方での気高さなどをたくさん知りました。そして、二度と戦争を起こしてはならないという、不戦の決意を固く抱いてきました。しかし、時代を経て、戦争にまつわる記憶はとかく風化しがちとなり、若い世代にも語り継がれなくなりつつありましたが、この本は、あらためてそれらを意識させ、忘れてはならないものとしてしっかりと次代に伝えていく、格好の書になったような気がします。
  1ヶ月くらい前に送られてきて、息もつかせず一気に読み上げ、そのあと妻も読んで感動を共にしましたが、さらに多くの方たちに薦めたいと思っています。大手の書店には置いてあると思いますが、インターネットで書名や著者名を入れて検索してアマゾンなどの通販サイドからも購入することができます。書名等は次の通りです。
 白石喜和著 「振りむけば戦争があった」 初版発行:2013年9月20日 定価:1,200円 
 発行:東京図書出版 発売:リフレ出版