オレンジリボン

  神奈川県厚木市のアパートの一室で、白骨化した男児の遺体が見つかり、捜査したところ、部屋の借り主であった父親が、7年前に、当時5歳であった我が子の養育を放棄して遺棄、餓死させた事件が判明しました。母親は夫のDVのためにこの子を夫の元に置いたまま家を出、そのまま一度も家に戻ることはなかったようです。
  子どもとともに残されたこの男は、トラックの運転手をしていて、最初は週に5日ほど、飲料水と2食分の弁当を持って家に帰り寝泊まりをしていたようですが、そのうち、週に2回ほどしか帰らなったようです。ということは、この子は食事や水も十分でない中、日中はずっと部屋の中に一人でいたことになります。そして数ヶ月後、栄養失調でがりがりにやせてしまったこの子は、男が買ってきたおにぎりの袋を開ける力もなく、それでも「パパ、パパ」とか細い声で父親に呼びかけていたそうですが、この男は子どもを助けることなく、「子どもが死ぬのが分かって怖くなった」と、その場から逃げ出し、結局この男の子は死に至ります。先月警察に逮捕されるまで、男は、自分のしたことが発覚しないよう、この子の遺体を放置したまま、7年間にわたってアパートの家賃を払い続けていたそうです。
  子どもを遺棄したのは、この男が別の女性と過ごしたかったからとのこと。男友だちと遊び回るために邪魔になって、母親が幼い我が子2人をマンションの部屋に閉じ込め、遺棄、餓死させた4年前の大阪の事件の、まさに父親版の事件といえます。大阪の事件は、そのあまりのむごさに、幼い子の虐待死や中学生のいじめ自殺等、子どもを取り巻く事件の多発に胸を痛めていた多くの国民に、とりわけ大きな衝撃を与えましたが、また再び同じような事件が起きてしまいました。
  自分の欲望のためには、小さな命も無視してしまう。親の資格はもちろん、人間としての資格もないような人たちが絶無ではないというのが、残念ながら現在の日本社会です。これに対して我々は何をなすべきか。前に大阪の事件の時にもこのブログに書きましたが、「子どもは社会のもの」という強い意識のもと、社会全体ですべての子どもを守り、育てていく必要があると思います。
 児童養護施設や里親制度など、社会的養護制度がある中では、何らかの事情で子どもの養育ができない親は、「親であること」から降りてもよいという合意を、社会全体で共有する必要があります。そして、不適切な養育しかできない親の元からは、子どもの成長と命を守るために、強制力を持ってでも時機を失することなく子どもを保護し、社会的な養育に移行すべきです。 
  今回の厚木の事件でもやはり、児童相談所教育委員会など、行政の対応が適切であったのかどうかが問われています。大阪の事件を契機に、特に児童相談所を中心に、社会全体で子どもを守っていこうという体制ができたはずなのに、機能していなかった。 児童憲章や児童福祉法があり、児童虐待防止法もありますが、その法体系のシステムの中で職務として携わる人たちに、例えば安否確認のために家庭訪問をし、不在だったから帰ってきてその後は何も対応をとらなかったなどの事例があまりにも多いようです。児童福祉司等の数が足りないのであれば増やす必要がありますが、まずは職務として現に携わっている人たちに、子どもの命に関わっているという強い使命感を持った一層の取り組みを望みたいと思います。
  そして、地域の住民にも、子どもたちの成長を温かく見守りながら、地域の子育て環境の整備に協力する。そして、万一、子どもの養育環境に大きな問題を感じるようなことがあったら、速やかに行政につなぐといった、社会的な子育ての一翼を担っているという意識が不可欠だと思います。
  私自身に即していえば、これまで地域住民のひとりとして、そのような意識を持ち続けてきたつもりですが、たびたび報道される児童虐待等の事件には、本当に無力感を感じていました。ただ自分にできることといえば、非業な死を遂げた子どもたちが出るたびに、仏前で、その子ども達がお浄土で安らかに永遠の生を生きていくことを念じることしかできませんでした。
(大阪の事件で亡くなった子ども二人の遺骨は、殺した母親の元夫の実家に引き取られ、元夫の両親(祖父母)が手厚く葬り、仏前で供養がされているようです。母親は懲役30年の実刑が確定し、服役していますが、真面目に務めれば半分くらいの刑期で仮出所をして来るのかもしれません。それが長いのか短いのか、ただ、真剣に自分の犯した罪に向き合って贖罪をし、生まれ変わってきてほしいと思います。そして、来世での親子再統合というか、いずれ自分も子どもと同じ世界に行った際には、子どもに心から詫びて二人を抱きしめてやってほしいと思います)
  しかし、横浜にすぐ近い厚木市で発生し、新聞やラジオ、テレビで事件の詳細が知らされるにつれ、思わず目や耳をふさぎたくなるようなむごさを持つ今回の事件では、これまでのように単に人知れず子どものために仏前でお参りをするというだけでは済まない、強い焦燥感に包まれました。何かこの自分にも、本当に二度とこのような事件が起きないように、万分の一でも役に立つ具体的なことができないか。種々考えていて、ふと思いついたのが、オレンジリボン運動(http://www.orangeribbon.jp/zenkokunet/)への参画で、先日手続きを済ませました。
※車に貼るステッカー
  参画といってもサポーターになってささやかな額の寄付をし、この認定NPO児童虐待防止に向けた様々な活動を精神的に支援することしかできません。ただ、私の知人は既にずっと前からサポーターとなっており、オレンジリボンのバッジを身に付け、車に標章を貼ったりしています。それで私もこの活動のことを知りましたので、同じようにして、サポーターをさらに増やしたいと考えています。