真面目な人は・・・

  幻冬舎新書の電子版で、「真面目な人は長生きする」という本を読みました。健康法に限らず、「○○になる法」といったハウツー本は押しつけがましいのがイヤで、いつの頃からか一切読まないことにしていましたが、この本は人の性格と長寿の因果関係に触れていて面白そうだったし、何より、私は真面目さにかけては人に負けない自信がありましたので、「おっ、自分も長生きできるのか!」とやや嬉しくなって、読んでみようと思った次第です。
 この本は、題名の横に「八十年にわたる寿命研究が解き明かす驚愕の真実」とありますが、今から100年ほど前の1910年代にアメリカのターマンという人が、カリフォルニア州で10歳前後の知的能力の高い子ども約1,500人を選び出して、その子どもたちの生育歴や養育・教育・生活環境、健康状態などについてのデータを取得。その後も30年間にわたり成長過程毎にデータを取得して、その子どもたちがどのような大人になったか、実業家や科学者、弁護士、医師など成功者や活躍した人物がいた一方、同じような才能に恵まれていてもそれが生かされない結果で終わった人も数多くいたことなどの因果関係を、統計学的に調べようとしたことに端を発しています。
  ターマンの研究は彼が79歳で亡くなって終わりましたが、それから約30年後、同じカリフォルニア州で長寿の研究をしていたフリードマンという大学教授がこのターマンの資料に気がつき、1,500人ものサンプルの詳細なデータの再活用を思い立ったそうです。すなわち、サンプルとなった人々のその後の健康状態や死亡率、死亡原因を調べれば、30年にわたって集積されたデータと長寿との因果関係を明らかにできると考えたのでした。
  調査を開始した時10歳だった子どもたちが70歳になっていた時点から調査はさらに20年間にわたって続けられ、長寿を保っている人がいる一方、病気や事故、自殺等で短命に終わっている人もいて、その原因は何なのか、単なる遺伝的体質や生活習慣の違い以外の要因があるのではないか。それがそれぞれの人の「性格」と、それに伴う「生き方」であったということで、精神医学的な知見も含めて、フリードマンは詳細に分析します。この本は、その内容をもとに書かれており、著者の岡田尊司氏は精神科医です。
  で、この1,500人のサンプルを80年間にわたり追跡調査をした結果からフリードマンらが導き出した結論について、著者が解説していることから大きなものを二つだけ取り上げて要約してみると、次のようになります。
Ⅰ 「長寿に最も結びつく性格は、『生真面目で、怠りなく、自己コントロールができ、信頼に足る、慎重な努力家の傾向』である。明るさや陽気さは、むしろ寿命に対してマイナスの相関さえも示した。健康で長く活躍し、長寿を全うした人は、欲望のままに楽しみを追求したり、やりたいことだけやって暮らしたような人というよりも、日課を勤勉にやりこなし、欲望もほどほどに満たす術を心得た、自己抑制が利いた人である」→著者は、「アリとキリギリス」のアリのような生き方が、結局、健康長寿に結びつくと言っています。
  そして、なぜ真面目な人は長生きしやすいのかということを科学的に分析してみると、①真面目な人は健康を守ることに怠りなく、有害で危険なことをあまりしない。喫煙率も低く、過度に飲酒すること等も少ない、②真面目な人が持つ遺伝的特性として、脳内の伝達物質として衝動性を司るセロトニン系の働きが良く、危険な行動や耽溺的行動に走りにくく、ストレスや不安レベルが低いという推測が成り立つ、③真面目で自己コントロールのできる人は、より安定した職業生活、より安定した結婚、より安定した対人関係を長く保つ傾向がみられ、それによって波乱を避け、生活の安定を維持し、無用のストレスを減らすことで結果的に健康と長寿につながる、とあります。
Ⅱ 「親や配偶者との関係が安定したものであるかどうかが、その人の寿命にさえ大きな影響を及ぼす。人との絆は、単に心理的な慰めというよりも、栄養や運動に劣らず、生存を支え、命を保たせるのに不可欠な要素である」→著者の岡田氏は、愛着障害や不安定な愛着がさまざまな精神的な問題に深く関わっており、そこからの回復には愛着の修復が不可欠としていますが、このフリードマンらの研究で、親が離婚をした家庭の子どもたちの寿命が平均よりも5年短かかったという結果に注目しています。近年の他の研究でも、離婚が子どもたちに心の傷や有害な影響を与える傾向は同じく認められていると指摘しています。
  愛着関係のデータでは、「未婚者は既婚者よりも短命だが、離婚はもっと寿命を縮める」、「若いうちに結婚した方が長生きできる」、「結婚の期間が長いほど寿命に好影響」、「将来の夫婦の健康状態は、夫の幸福度に左右される(夫が幸福だと感じ、もっと安定し、もっと社会で活躍すれば、その恩恵が妻や子にももたらされる等の理由。男性が稼ぎ手の中心となっていた時代背景もややある)」等の結果もありました。

  ところで、以上のⅠ及びⅡについて、私に当てはめるとどうかということを考えてみますと、まずⅠの真面目な性格という点では、私の真面目さというのは、「悪さをしない、悪さができない」という意味での真面目さで、「怠りない、努力家」といった面はあまりないことに気がつきました。週に3回はジョギングするという目標は到底達成されていませんし、夜、たくさんお酒を飲んで、何もしないで早寝ということも多い。それでも、古稀を過ぎてもまだ少し働いている点は評価できるかと自分で思ったりもしますが、いずれにしても、この研究で健康長寿を保証された性格には及ばないような気がします。
  一方で、Ⅱにいう、親子や配偶者と愛着関係を築けているかという点では、ほぼ完璧です。我が家は、今は亡き祖父母や父母の世代から我々の世代、そして子どもたちの世代とも、それぞれにしっかりと幸せな家庭を築いています。その結果として、現在の我々夫婦にとって、3人の孫が運んでくれる幸せは何ものにも変えられません。
  このように考えていた時、この愛着関係での幸せは、Ⅰでいう真面目な性格がもたらしたものではないかと気がつきました。特段の取り柄のない私ですが、良き家庭人であり、良き職業人でありたいという意識だけは常にありました。そう言えば、私の友人たちもほぼ同じ状況だなと感じています。 まあ、百点満点の人生は誰にもないでしょうが、Ⅰにいう性格とⅡにいう幸せは密接に関連していることは間違いありません。
  人生を俯瞰すると、いろいろなことが見えてきます。今を生きる、特に私たちよりも若い世代が、「真面目な生活」を送ってくれることを願うばかりです。「良き家庭を築く」、ただそれだけの意識を持ち続けることで良いのですから。いや、とても面白い本でした。