現代保育事情

  孫のKくんが通う保育園には大変お世話になっているところですが、ここも含め保育園というところは、子どもを長時間預かって親に代わって保育をするのが主目的のため、子どもを安全に過ごさせるということ以外に、就学前教育的なことは特段何もなされていないようです。
  姉のYちゃんの幼稚園は、毎月1回は高尾山を麓から登り、卒業登山では八ヶ岳の2千メートル級の連峰を登り切るような鍛錬をする園でしたし、従姉のLちゃんの幼稚園は、ネイティブから英語を教わったり、体操教室があったりと、多彩な幼児教育をしていました。おまけに、二人とも、幼稚園から帰ってきたら、ピアノや水泳や公文などの習い事にも行っていたので、土曜日にキッズテニスに通うだけのKくんは、母親が就労したあおりをだいぶん受けていることになります。
  待機児童問題をはじめ、Kくんにも関係する保育の「質」の問題など、現代保育事情について気になっていたところですが、最近私は、東京都内で保育実践を行っている3人の事業者の方々から話を伺う機会があり、だいぶん状況が分かってきました。以下はその概要です。
  まず、保育園に通っている子どもは教育を受ける機会が保障されてないのかというと、「教育」の定義にもよりますが、国が定めた保育所保育指針には「保育所は、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行う」とあり、普通の認可保育所でも教育を行うのが大きな目的の一つであることを知りました。
  ある認可保育所の園長さんの話では、その園では、音楽プロジェクトとして子どもたちの鼓笛隊や合唱隊をつくって様々な機会に発表させたり、体育プロジェクトとして園庭を目一杯使って体操を教えたり運動会をしたり、その他、造形や食育のプロジェクトもあるということでした。そして、それに携わるのは、それぞれその分野が得意な職員だそうで、園は職員の得意分野を伸ばせるようにバックアップしているとのことでした。
  次に、ある認証保育所の経営者の話では、東京都が16年前に制度化し、設置を進めてきた認証保育所は、その後の国の保育制度の見直しにつながり、他の自治体にも波及しましたが、保育の質の面も含めて、認可保育所とは違った良さもあるようです。
  すなわち、認証保育所は、0〜2歳児保育や保育時間の延長が進まない認可保育所を補完するものとして、長時間保育(早朝から13時間以上)や0〜2歳児保育の実施、保護者との直接契約、通勤に便利な場所への設置などを謳って、民間企業の参入により設置が進んできましたが、最近は、その地域性や小規模性、保育の質へのこだわりと独自のサービス・プログラムの実施などを評価する保護者等も多く、わざわざ認証保育所を選ぶ保護者もいるそうです。保育料も、ほとんどの自治体が認可保育所との差額を助成しているとのこと。
  話をした経営者の設置する認証保育所では、帰国子女や大学院卒の保育スタッフも多く、国際性やコミュニケーション能力の涵養が教育方針のようでした。連絡帳のデジタル化やライブカメラの活用による保護者への安心の提供など、ITを駆使しているのにも感心しました。
  また、近年できた認定こども園の1形態である幼稚園型認定こども園の園長の話も伺いましたが、その園では、それまでの幼稚園の敷地内に建物を分けて保育部門を設け、早朝、保育部門に通ってきた子は、9時から14時までを隣接する幼稚園で過ごし、14時からはまた保育部門に戻ってくるとのこと。
  保育部門を出て幼稚園に行くときには制服に着替え、保育部門に戻ったときにはまた脱ぐ、担当職員はそれぞれ別の職員に分ける、などの工夫もしていますが、これは、社会生活(幼稚園)と家庭(保育部門)の時間を分ける狙いがあるようです。この幼稚園には宗教がバックボーンとしてあるのですが、公教育を担う私立幼稚園として、私学の独自性を大切にするとともに、国の幼稚園教育要綱に沿って、独善性に陥らないように気をつけているとのことでした。

  以上、それぞれ制度の仕組み等は異なっても、どの現場でも、子どもの保育の質を高めるための工夫や努力がなされていることがよく分かりました。
  なお、乳児から就学前まで子どもたちが過ごす場としては、以上の3パターンのほか、企業内保育所、家庭的保育室(保育ママさん制度)、居宅訪問型保育(ベビーシッター)、病児保育、児童発達支援センター(障害児の療育)など多様にあって、数も増えてきているようです。
  現代の保育事情をあれこれと知って、結論として私は、待機児童の解消や保育の質の向上の課題について、次のように考えました。
  まず、現実的な対応として、就労などにより子どもの保育の場の確保が必要になった場合には、多様なパターンの保育の場が整備されつつあるので、認可保育所にこだわらずに、選択肢の幅を広げて検討すること。そしてその保育の場の質の問題については、状況に合わせて自分たちでカバーする努力をするしかないということです。例えば、保育園では幼稚園のように文字を教えてくれなくて不安であれば、週末に自分たちで教えたり、通信教材を取ったりする方法もあります。
  次に、課題の解決として本質的に考えなければならないこととしては、例えば待機児童の問題も、大都市部では深刻でも地方では保育園の定員に空きが出ているところも多い(東京でも青梅市などでは空きがあるそうです)という状況からは、東京一極集中など、我が国の都市政策の問題であることを認識する必要があります。
  また、そもそも昔のように3世代同居や専業主婦が多かった時代であれば、今のような保育所不足等の問題はあまり生じなかったわけですが、国民の意識を逆戻りさせるわけにはいきません。しかも現在は、少子高齢化や人口の減少といった日本社会の大きな課題への対策の一つとして、働き方に対する社会の仕組みや国民の意識の変革が進められています。若い人たちが結婚をし、子育てをしやすい社会を作るためにも、長時間労働の是正などの働き方改革が必須であり、保育所の整備促進と併せてそれを実現しなければ、課題の根本的解決にはならないと思います。