「便利」の不便

  電化製品やパソコンソフトにあれこれと機能を追加したためにシンプルさが無くなって使いづらくなるなど、事業者が利用者の「便利」のためにしたことが、かえって多数の利用者にとって不便と感じるようになることがままあるものです。これに似た、最近私が感じている「『便利』の不便」は、次のことです。世の中の進歩のために我慢しなければならないことかもしれませんが、本当に不便・・・!
  まずは、3月14日に開通したJR「上野東京ライン」です。東京駅が起点、終点であった東海道線上野駅を起点、終点としていた常磐線並びに宇都宮線高崎線とつながり、東京駅が単なる通過駅になってしまったことです。これにより不便になったことは、①これまで東京駅で東海道線に乗るときは始発駅なので一電車くらい待てば必ず座れたのに、今では来る電車どれも乗客が多数乗っていてよほど運が良くなければ座れなくなったこと、②運行区間がこれまでの倍以上になったため、遠くで起きた事故等もダイヤに影響して、列車の遅延や運休が増えたこと、③これまで発着とも東京駅の7、8番線であったのが、横浜方面行きはホームに出るのが不便な9、10番線になったこと、④横浜方面行きの間に品川止まりの列車が多数入るため、ホームで待っていて忙しないこと、などです。
  まだ公私ともに東京駅経由、中央線に乗ってお茶の水飯田橋、多摩方面等に行く機会の多い私にとっては影響が大きいのですが、横浜方面在住の友人等は皆「困った」「不便になった」と漏らしていますので、神奈川全県や静岡方面在住の人たち(オレンジ色の東海道線を「湘南電車」と呼んで親しんできた人たち)も含めれば不便になった人の数は膨大といえます。
湘南電車 ※インターネットから  
  そして私には、ある意味、現実的な不便以上に心情的な面の残念さも強くあります。それは、九州出身の私にとって東京駅は日本の中心、日本のターミナル駅としての位置づけがずっとありましたが、そのイメージが壊されたことです。夏目漱石の「三四郎」の時代から、地方出身者にとって東京駅は「あがり」の駅であったのに、今や東京駅を目指しても、行き先には群馬や栃木の聞いたこともない名前の駅ばかりが表示されています。居眠りして乗り過ごしたら、東北地方の見知らぬ駅に放り出されることもあり得る時代となったことが、良かったとは到底思えません。
  次の「『便利』の不便」は、先日の日経新聞に出ていた「2017年以降は従来型携帯電話(ガラケー)の生産中止」のことです。パナソニックなど日本の携帯端末メーカー全社は、独自の基本ソフト(OS)を載せた従来型携帯電話の生産を2017年以降に中止し、全端末のOSをスマホの標準である米グーグルのアンドロイドに統一するとのこと。スマホの普及が進み、日本だけで通用する従来型携帯は開発が重荷になっていたので、コスト削減のためそのようになるらしいですが、メーカー側の大義名分としては、機能が豊富なスマホへの移行は世界の趨勢ということかもしれません。
  17年以降はガラケーは使えず、スマホしか使えないようになるのだとしたら、私もそうですが、高齢者を中心に不便で困る人が膨大な数になるのではないでしょうか。1台で通話もメールもでき、インターネットにもアクセスできるスマホは確かに便利ですが、外出先での通話やメールが中心で、インターネットは職場や自宅のパソコンで十分という人には、形状や大きさからもガラケーの方が断然使い勝手が良いはずです。高齢者にはスマホの小さな画面で文字入力をしたり、インターネットを見るのは向きません。
  スマホは通信コストもとても割高です。我が家では現在、私と妻2台のガラケーと私のiPad用のモバイルルータ使用料、自宅パソコンのインターネット接続用のプロバイダ契約料金の全てを合わせて通信費が月に1万2千円程度ですが、これを2台のスマホと自宅パソコンのプロバイダ費用のみに集約したとしても1万8千円程度にはなると試算しています。つまり、不便になった上にコストも嵩むというわけです。
  ただ実は最近、私自身もガラケーの限界に気がついていたことがありました。妻が来月渡米するのですが、現地の空港で友人と待ち合わせの際に携帯電話で連絡を取り合う必要があるということで今持っているガラケーの国際ローミングを検討したのですが、機種変更をしても様々な障壁があることが分かったのです。インターネットにつながるスマホならwifiを介してのスカイプなどもできるし、そちらの方が簡単そうです。いっそこの際、妻にスマホを持たせようかとも考えましたが、あと2週間ほどで渡米するのに機器の操作等を覚えるのが間に合いそうにありません。
 いったい我が家は、ガラケーの生産中止というこの不便さにどう対処したらよいのか、当分悩みは続きそうです。